2024年5月31日より、日本全国でRSウイルスに対する母子免疫ワクチン「アブリスボ®筋注用」が発売されました。
当クリニックでも接種が可能です。
以下に詳細をご案内いたします。
- RSウイルスとは?
- 流行期と地域差
- 感染率と予防の重要性
- 治療と注意点
- アブリスボ®筋注用とは?
- 対象となる方
- 接種タイミング
- 接種回数
- 効果について
- 安全性について
- 妊娠中の他のワクチン接種について
- 母子手帳への記録について
- 価格
- 接種の予約について
RSウイルスとは?
RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は、乳幼児の肺炎や細気管支炎など呼吸器感染症の主要な原因となるウイルスです。家庭や保育園などで簡単に広がり、RSウイルスに感染すると4~5日の潜伏期間(症状が出るまでの期間)の後に以下のような症状が見られます。
- 発熱
- 鼻水
約70%の乳幼児は、これらの症状が数日間続いた後、回復に向かいます。 しかし、約30%の乳幼児、特に生後6カ月未満の赤ちゃんや早産児、先天性心疾患を持つ子どもが重症化しやすい傾向があります。重症化すると、以下のような合併症を引き起こす可能性があります。
- 強い咳
- ゼーゼー、ヒューヒューといった喘鳴(ぜんめい)
- 呼吸困難
- ミルクの飲みが悪くなる
現在治療薬はなく対症療法のみが行われます。最悪の場合、集中治療や人工呼吸管理が必要となり、命に関わることもあります。
成人のRSウイルス感染は風邪程度で済むことが多いですが、6カ月未満の赤ちゃんでは重症化しやすく、年間12万から14万の2歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症と診断され、そのうち3万人が入院を要しています。
特に早産児や先天性心疾患、免疫不全を持つ赤ちゃんは重症化のリスクが高いです。早期の受診と適切なケアが非常に重要です。
RSウイルスの流行期と地域差
RSウイルスの流行は地域によって異なり、主に冬季に感染が増加します。地域ごとの流行状況を把握し、特に流行が広がりやすい時期には予防策を徹底することが大切です。感染の多い時期には、外出を控えたり、人混みを避けることが推奨されます。
RSウイルスの感染率と予防の重要性
RSウイルスは非常に一般的なウイルスで、生後1歳までに50%以上の乳幼児が感染し、2歳までにはほぼ100%が初感染します。
生後1~2カ月の時点でのRSウイルス感染による入院発生率がピークとなるため、生後早期からの予防が重要です。
家族全員が手洗いを徹底すること、風邪をひいた人との接触を避けることが大切です。また、感染リスクが高い赤ちゃんを別室で寝かせることも有効です。保育園など人が多く集まる場所では感染が広がりやすいため、特に注意が必要です。
RSウイルス感染時の治療と注意点
RSウイルス感染には特効薬がなく、対症療法が中心です。 赤ちゃんが感染した場合は、咳や鼻づまり、呼吸困難などの症状が現れます。特に生後6か月未満の赤ちゃんでは、これらの症状が深刻化することがあり、呼吸が苦しそうに見えたり、咳で嘔吐することもあります。症状が悪化する前に、すぐに医師に相談することが重要です。
母子免疫ワクチン(アブリスボ®筋注用)によるRSウイルスの予防
現在、RSウイルスに対する母子免疫ワクチン「アブリスボ®筋注用」が開発されています。 妊婦さんに接種することで母体のRSウイルスに対する抗体を増やし、その抗体が胎盤を通して胎児に移行することで、生まれた赤ちゃんがRSウイルス感染症に対して予防効果を得られる母子免疫ワクチンです。
妊娠24週から36週の間に接種することで、赤ちゃんを感染から守ることができる可能性があります。ワクチン接種によって、赤ちゃんがRSウイルスに感染するリスクを減らすことができ、安心して子育てを始められるようになります。
対象
妊娠24~36週の妊婦が対象となります。
- 28週から36週の接種が特に有効です。
- 接種後14日以内に出産した場合、抗体の胎児への移行が十分でない可能性があります。
RSウイルス母子免疫ワクチン(アブリスボ®筋注用)の接種タイミング
RSウイルス母子免疫ワクチン(アブリスボ®筋注用)は、妊娠24週から36週の間に接種することができます。
しかし、最も効果的な接種時期は妊娠28週から36週の間とされています。
特に、妊娠28週から32週未満の間に接種することで、赤ちゃんが生まれた後にRSウイルスによる重い呼吸器感染症を予防する効果が非常に高まります。
具体的には、生後6ヶ月までの「重度のRSウイルス関連下気道感染症」に対するワクチンの有効性は、妊娠24週から28週未満に接種した場合は43.7%であるのに対し、妊娠28週から32週未満の接種では88.5%、妊娠32週から36週以下の接種では76.5%の減少が認められています。
また、「医療機関の受診を必要とするRSウイルス関連下気道感染症」に対しても、妊娠24週から28週未満の接種では20.7%の減少が認められたのに対し、妊娠28週から32週未満の接種では67.4%、妊娠32週から36週以下の接種では57.3%の減少が見られました。
接種回数
1回
効果
- 発症予防効果:約50%
- 重症化予防効果:約80%
- 効果持続期間:生後6カ月まで
安全性について
このワクチンの安全性については、アメリカでの大規模な調査が行われました。
2024年6月に発表されたデータによると、32〜36週の妊婦さんに接種された約32万人のうち、わずか121例で有害事象が報告されました。 そのうち、早産が37例ありましたが、これがワクチンの直接的な原因であるかどうかは不明です。
また、ワクチンの接種による痛みや軽い症状はありましたが、重篤な障害はほとんど見られませんでした。
さらに別の調査でも、接種部位に軽い副反応が見られましたが、妊娠に特有の問題はほとんど報告されていません。
また、早産率もワクチン接種前の予測範囲内であり、重大なリスクがないことが確認されています。
妊娠中の他のワクチン接種について
妊娠中に接種するRSウイルス母子免疫ワクチン(アブリスボ®筋注用)は、破傷風、ジフテリア、インフルエンザ、COVID-19などの他のワクチンと同時に接種(同日)することが可能です。
また、別の日に間隔をあけて接種することもできます。
一部のデータでは、60歳以上の成人において、RSウイルスワクチンと他のワクチンを同時に接種することで、局所的または全身的な反応が増える可能性が示されていますが、これが確立されたエビデンスとは言えません。
また、高齢者においては、同時接種によってインフルエンザ抗体の値がやや低くなることが観察されていますが、これがどの程度の影響を及ぼすのかは明確ではありません。
一方、妊婦さんに推奨されているCOVID-19ワクチンやTdap(百日咳、破傷風、ジフテリア)ワクチンとの同時接種に関しては、十分なデータがまだ不足しています。
18歳から49歳の非妊娠女性において、Tdapワクチンとアブリスボ®筋注用を同時に接種することで、百日咳成分に対する免疫応答が低下したという報告もありますが、この免疫応答の低下が実際にどのような影響を与えるかは、はっきりしていません。
母子手帳への記録について
RSウイルス母子免疫ワクチンを接種した場合、生まれた赤ちゃんが健常で予定通りの時期に生まれた場合には、新生児向けのRSウイルスワクチンの投与は原則として不要です。
なお、ワクチンが十分な効果を発揮するまでには、少なくとも2週間が必要です。
また、新生児や乳児が風邪のような症状を示したり、RSウイルスに感染した疑いがある場合、妊娠中にRSウイルス母子免疫ワクチンを接種していたかどうかが診療の参考になることがあります。
そのため、赤ちゃんが生まれた後に小児科医に母親のワクチン接種歴と接種時期を伝えることが非常に重要です。
妊娠中にワクチンを接種した場合は、母子手帳の「予防接種の記録」欄にある「その他の予防接種」の項目に、接種したワクチンの情報を記録しておいてください。
価格
35,000円(税込)
※別途、自費初診料3,300円(税込)もしくは自費再診料1,650円(税込)がかかります。
当クリニックのかかりつけの妊婦さんは、別途再診料がかからないため、妊婦健診の際の接種を推奨しております。
※当クリニックでは、アブリスボ®筋注用のみ、「こども商品券」(紙式、カードタイプのみ)10,000円分までご利用いただけます。
「こども商品券」は江東区の「ゆりかご面談」を受けられた方に配布されております。詳細は江東区のホームページをご覧ください。
「こども商品券」のe-Giftタイプはご利用いただけませんのでご注意ください。
接種の予約について
当クリニックで「アブリスボ®筋注用」の接種を希望される方は、WEBよりご予約ください。
当クリニックのかかりつけの妊婦さんだけでなく、当クリニックにおかかりでない妊婦さんも接種可能です。
RSウイルス感染症は、特に乳幼児にとって重大な健康リスクをもたらします。
「アブリスボ®筋注用」により、新生児や乳児の健康を守るお手伝いをしたいと考えています。
妊娠中の皆様は、この機会にぜひ接種をご検討ください。詳細やご不明な点がありましたら、当クリニックまでお気軽にお問い合わせください。